林檎泥棒

林檎泥棒になりたかった

1週間ぶりくらいに部屋から出れて外出した帰りにバスに乗っていたら赤ちゃんを乗せた大きめのベビーカーを押した女性が乗ってきた。

杖をついている老人なども多く、優先席周りは混み合っていて女性は入り口近くのスペースにベビーカーを収めたが、運転手が「お母さん中に入って」「えー、どうしようかな」などとマイクを通して決して優しくはない言葉をかける。周りの乗客も手伝って窓際の車椅子固定用のベルトでベビーカーを固定した。女性も他の乗客も少しほっとしてバスに揺られていると、赤ちゃんは赤く光る降車ボタンやすれ違った救急車に興味津々の様子だ。

区役所前のバス停で2人は他の乗客と一緒に降りていった。降りるとき赤ちゃんは私と私の前に座っていた高齢の女性にそれぞれ手を振ってくれて、私もそれに応えた。

自分に向かって振られる小さな柔らかそうな手が愛らしく、きらきらした目と金色の細い髪の毛が綺麗だった。